とんでもじいさんと、麻のジャケット

突然ですが、かあちゃんの祖父は
かなりとんでもない人でした。

冗談みたいですが
レーガン元大統領に似てます。(笑)
190㎝近い長身で
がっちりしたアゴと
チークで染めたような高い頬骨。
相当なイケメンだったのですが、
いろんな会社を作っては倒産させたり
ちょいちょい女と蒸発していたそうで。

「なんであんな男と離婚しないのよ?」
と実家の母が祖母にたずねると
「だってかっこいいんだもん!」と。
明治の女は強いね!

で、そのとんでもじいさん、
たまにふらっとうちに遊びに来ることがありました。
いまだに思い出すのが
彼がいつも真っ白な麻のジャケットを着て
中折れ帽をかぶり
いい匂いの扇子を持っていたこと。

「つるし(既製服)はダメだ」
が口癖の祖父は
いつも三越であつらえたパリッとした麻のジャケットを
一部の隙もなく涼しげに着こなしていて
そのあまりのかっこよさに、かあちゃんは、
祖父を見せびらかすため
友達を家に呼んだりしたものです。

「おじいちゃん、長袖暑くないの?」
ときくと
「いや」
といいながら
パタパタしていた扇子は
今考えると白檀だったのでしょうね。

幼心にかあちゃんは
「大人になったら、夏は麻のジャケットを着るものだ」
って思ったものです。

で、いい大人になってから
着てみました。麻のジャケット。
5〜6年前に初めて買った
麻の白いジャケットです。

着てみると・・・
全然涼しくないじゃない!
おまけに白い麻ジャケットなんて
襟首にすぐ汗染みができるし
メンテナンスも手間がかかってたいへん。

そのときかあちゃんは気づきました。
祖父の麻ジャケット姿は
祖父自身のためではなく、
周りを涼しい気持ちにさせるものだったんだなあって。
そして、そのおしゃれの気合が
大人ってものかもしれないなあ、と。

自分が心地いい服
自分が好きな服
自分が自分らしくいられる服

それはとても大切なことにはちがいないのですが
場に合わせて、
周りも一緒に心地よくなれる服を着る
それが本当のおしゃれさんなんだろうと
麻のジャケットを着るたび思います。

ちなみに祖母は、
元気がよくて、ちゃきちゃきの江戸っ子で
祖父とはかなり不釣り合いな
「土偶」みたいな顔とスタイルの持ち主でした。

そして残念ながらかあちゃんは
祖母に似ています。(笑)

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